小国レイヌは教会併設の孤児院がある。ルロイ神父のもと孤児は常に数多くいたが、その中のヒュウという少年と、エキドナという少女の話を少ししよう。エキドナの方が二つ年上だった。二人は時々つかみ合いの喧嘩をして、けれど神父がなだめようとすかそうとけして喧嘩の理由を話そうとしなかった。
 なので、夜の食事抜きで明かりのない小部屋に閉じ込められる罰を二人で時々受けた。暗闇も空腹も、神父の怒りを通り越して悲しい眼差しすらも、二人の子供の口を割らせるには至らない。だが喧嘩を幾度か繰り返す内、諍いを遠巻きに眺めていた周りの孤児たちの証言で、薄々と事情は察せられた。
 ふっかけるのは決まってヒュウの方だという。
「パーパ(神父様)は俺たちの父親だぞ」
「父親ったって、血がつながってないわ」
 エキドナが噛みつくと、ヒュウはどこから仕入れてきたのかこんな言葉で遣り返した。
「お前のは要するにキンシンソウカンだ」
「――何よ」
 エキドナはかっとなって、
「あんただってカロル(男)が――」
 エキドナが言い切らない内にヒュウがつかみかかり、年長も女も躊躇しないヒュウの力加減に孤児達が悲鳴を挙げて、パーパ! パーパ!! ヒュウとエキドナを止めて! と叫び回る。この二人はこんな調子で何度となく小部屋送りになった。この頃、10歳と8歳。
 ヒュウは美しい少年だった。色白の肌に黒髪と黒目と赤い唇がよく映えて、子を望む里親候補たちの心を幾度となく射止めた。けれど外見に反して気性は激しかった。自分をみなしごにした顔も知らぬふた親への憎しみからか、いつも何かに飢えたように目つきを険しくしていた。
 エキドナも、目鼻立ちがはっきりとして、勝ち気そうだが美しい女性に育ちそうな展望があった。けれど教会から出るとたびたび問題が起こり、ヒュウは一度市場のそばで、このガキが誘ったんだ、とエキドナを指して声を荒げる男を見た。男と言い争う神父の背に庇われたエキドナの、死にそうな眼差しも。
 ある日。年少者の面倒見がいいカロル少年の里親が決まった。子のないパン屋の夫婦にもらわれていくという。慕われた優しい少年との「お別れ」の気配が、ヒュウの素質を表出させた。食事を取る大部屋の空中に、火の玉が浮かんだのである。
大騒ぎする孤児たちを掻い潜って、ルロイ神父が叫んだ。
「――魔法を使ったのは誰ですか!!」
 小国をぐるり囲む結界が緩んで、魔物が忍び込んだかと戦々恐々とする神父に向けて、誰からともなく孤児たちがこわごわ囁く。パーパ、ヒュウだよ、パーパ、火の玉はヒュウから出たよ――
 火の魔法の素質があると知れたヒュウへの周りの目線は忽ち変わった。小国レイヌは魔物に苛まれている。戦場に出る度胸があって、魔物を屠る能力があるなら、この国での出世は約束されたようなものだ。ヒュウを里子に望む声が日に日に増えた。けれどヒュウはどれも撥ね付け、神父以外の大人を拒んだ。
 代わりにといおうか、罪のない動機で孤児たちからの人気は上がった。建物が老朽化し、満足な毛布もなかなか揃わない孤児院の冬は厳しい。孤児たちは気づいた。ヒュウ兄ぃって、あったかい。寒い夜は、彼の寝床の左右を争って諍いが起きるようになった。
 この、あたたかなヒュウを時々独占する者があった。エキドナは、ヒュウとは何かの習慣を守るようにたまに口先でやり合う程度になり、12歳と10歳になっていた。その年齢にはあまりに似つかわしくない卑猥な言葉をそれぞれが口に出した罰で、やはり揃って小部屋に閉じ込められる時があった。
 暗い小部屋の中で、昼間の言い争いを忘れたようにエキドナはヒュウに寄り添った。
「寂しい?」とエキドナが聞く。
「何が」
「カロルが行ってしまって」
 興ざめしたようにヒュウが聞き返す。
「お前は? 恋敵が神ってどんな気分?」
 エキドナはすうと表情を消して、やがて瞼を伏せた。
 孤児たちも長じれば身の立て方を考えなければいけない。エキドナが自ら望んで色町に身を投じようとしていることはそれとなく知られていた。神父が――当然ながら――断固として反対していることも。けれどヒュウは予感していた。パーパがどんなに引き留めても、エキドナは行くだろうと。
 エキドナの歪んだひたむきさをヒュウは見抜いている。エキドナは色街へ行くことで、
「パーパを手ひどく傷つけようってんだろ」
 ――愛されない代わりに。
 ヒュウの言葉に、エキドナは目元を緩めて微笑んだ。ヒュウの琴線には触れないその色香が、彼女の望む職業への素質を如実に表している。
「寒いわ、ヒュウ」
 エキドナがすり寄る。ヒュウは身じろいで、じゃあ歌え、と待ち構えていたように言った。ヒュウは人の歌を聞くのが好きだった。歌なら、何でもいい。
 エキドナが声を細めて歌う。ヒュウは目を閉じて聞き入る。ほんの小さなけだものの仔が暖を取り合うように寄り添った。
「傷はつけるけど、……傷をつけるのは私だけど、治すのも私よ。いつか帰ってくることで、パーパを癒すわ」
 癒すために傷をつけるのだ。ただ生まれ落ちた矢先にふた親に捨てられて、否応なく傷を受けたはずのエキドナが、誰より愛する人を。
 ふうん、むちゃくちゃだな。とヒュウは思った。だがそれに苦言を呈する気にならなかったのは、いつか帰ってくる、とエキドナが確かな口調で断言したからだ。なら、いいんじゃないか、と思ったのだ。
「ねえ、あんたって出世するでしょうね。いつかちゃんと相思相愛の彼氏ができたら、教えてね――」
 エキドナの囁きは気楽な調子で、同性愛者としての未来に全く明るい兆しを見出せないで鬱屈していたヒュウに、思いのほか新しい風を送った。ヒュウは、一番に言う、と約束めいた口調で返した。生真面目な調子に笑ったエキドナは、14歳で色街へ行った。
 同じころヒュウは高名な魔女に見出されて、弟子となり修行に入るために教会を離れる。16で成人するまでの4年間、ひたすら研究と修行に明け暮れた。エキドナは娼婦として色街に奥深く潜り込み、男たちを日夜もてなして評判になっていると噂が届いていた。
 ヒュウは成人するなり軍に入り、才能を発揮した。大規模な魔物討伐に駆り出されては、これでもかと焼け焦げた死骸を積み上げた。功績に、軍籍の魔法使いとしては最高の待遇と期待を寄せられる証である緋色の肩掛けを賜るほどだった。19になっていた。
 エキドナは未だ帰らない。かつて勝ち気に宣言していた「いつか帰る」という言葉を呑気に信じていたヒュウも、その年ごろになるとようやく理解していた。彼女は、帰れずにいるのだ。さして明確な理由があるとも思えず、強いて言うならいわば神と婚姻している神父を故意に傷つけた罰だろうか――

 エキドナのことは気になるが、話を三年ばかり戻そう。ヒュウは成人と同時に軍入りして、修練場で修行の成果を余すことなく見せた。繰り出される炎の術の烈しさにこれは使えると上層部が見たか、早々に魔物討伐に引き入れられた。結果的に言えばヒュウは、両極端だった。
 行きは歩みも炎も威勢が良かった。けれどあまり効果的に魔物をなぎ倒すので、いつの間にやら最前線に押し出されて常に最大出力で魔法を使いっ放しだった。帰りは気力も体力も尽きて、人の良い兵士エマニエルに担がれて帰ってくる有様だった。
ヒュウは一度で懲りた。とても身体が持たない。元々研究に打ち込んでいるのが好きなので、そちらに専念しますと臆面もなく宣言した。高官たちがそうは問屋が卸さぬと突っぱねたが、聞くヒュウではない。それならクビにしてくださって結構と城下町の研究室を兼ねた自宅に引っ込んだ。
 だが、ヒュウが研究生活に甘んじることは許されなかった。初陣でのヒュウの獅子奮迅そして竜頭蛇尾ぶりを聞いた国王フェルステッドが、その女のような柔和な顔立ちにうっすらと笑みを浮かべて、一言で王命を下したのが。――その新兵を鍛えよ。
 さすがに一国の王の言まで引っ張り出したと聞いたヒュウもさすがに度肝を抜かれたが、それで急ぎ駆け出してくるような可愛げはない。王命であるぞと気を揉む高官たちのもとに、ヒュウが戻ったという知らせはなかなか届かなかった。膠着した事態は、けれど三日と続かずに済んだ。
 前述の人のいいエマニエルがヒュウを訪ねたのである。
「なあヒュウ、俺がお前を見てやるよ。一週間やそこらの行軍くらい、訳なくしてやるからさ」
 このヒュウより八つ年上の青年の人懐こさは、ひねくれたヒュウの気持ちをも柔らかくするところがあった。それでもまだヒュウは素っ気ない。
「誰に言われてきたんだ」
「誰でもないよ。俺みずから来たんだ。騎士様や大臣達がそわそわしてこっちも集中出来やしないからさ」
「何が目的だ」
 かみつくなあ、とエマニエルは苦笑する。
「……お前の力は貴重だよ、ヒュウ。体力をつけたら今より一層みんながお前を頼りにする。誇らしいことじゃんか」
「そうは思わないね」
 善意のみで来たなどと疑わしい、と薄目で見るヒュウに、じゃあ下心も明かそう、とエマニエルはあっけらかんと言う。
「お前は高名な魔女の元で勉強していたから図書館の入館証を持っているだろう。それを俺にも貸してほしい。俺は本が好きでこの国へ来たくらいだ。たまらなくそれが欲しい」
 それが目的と言えばそうだよ、とエマニエルはにっこりする。
「男が強くなるのはいいことだよ、大切な女性を守れるし――」
「守るべき女なんか、」
 ありきたりな常套句に、自分の少数派である性的嗜好を刺激されて高い声を上げかけたヒュウは、ふいに頭をよぎった面影に口を噤んだ。
 エキドナ。恋する人への当てつけのように色街で働く幼なじみ。けれど、内情は大抵の娼婦と同じだ。食うに食い詰めて、肉を鬻いでいるのだ。
「守るものはいつかできる」
 噛んで含めるようにエマニエルが言う。
「それに、ヒュウは絶対に出世するよ。金周りもよくなるだろうし」
「……金なんか、その日食えるだけあればいい」
 弱弱しく抗うように言ったヒュウは、けれどもう物思いに囚われかけていた。いつか帰るといって、彼女はまだ帰らない。その言葉を信じているけれど、一体いつになったら。……それとも帰れずに、いるのか。
 相思相愛の彼氏ができたら、教えてね。いつかエキドナに言われた言葉だ。そんなたらればは成就しないだろうと思っていたのに。エマニエルの、優しい緑色の瞳を見つめ返す。親身になって滔々とヒュウを諭す声の穏やかさに、いつの間にか聞き入っている。
「鍛えるって」
「ん?」
「何をするんだ」
「筋力と持久力の向上だな、まずは。基本は走り込みとトレーニングだよ。あとお前、もっと食べてちゃんと寝るべき。細っこいし、しょっちゅう隈作ってるだろ。だめだぞ、成長期なんだから」
 どこまで細やかに人のことを見ているのか、とひそかに目を瞠る。
 エマニエルの声に、いつかエキドナをなじった自分の声が被さる。どうせ叶わぬくせにとエキドナの恋心を侮った。でも、叶うか叶わぬかは問題としない。恋は命のように生まれいずるのだ。わけもなく花が咲くように。今だからわかる。――そして、誰知らぬまま枯れていく花もある。
 エキドナは恋を相手に伝えたのだろうか。あの、神と婚姻している神父に。そして自分は、なだれ落ちてきた恋をどう携えて生きてゆくのか。眩暈のするようなもどかしさには覚えがあって、うんざりするのに手触りがみずみずしい。エマニエルを見つめた――確かなことは。……秘めていれば、傍にいられる。
「師匠に頼んで口利きしてやる。図書館の入館証くらい軽いもんだ」
 ヒュウの言葉にエマニエルは微笑んだ。友だちが誘いに乗ってきたとでもいうような幼い笑み、かつ大好きな本に思う様耽ることができるという喜びを兼ねた、つまり大層魅力的な微笑みだった。ああ、思うさま恩を売ろう、せめて。
 その傍ら、ヒュウはこうも思っていた。体を鍛えて、出征して、成果を挙げて、名を挙げ身を立てたら、エキドナの帰る場所を調えよう。帰る場所がないのなら、作ればいいのだ。そう決めて、じゃあ早速明日から走り込みな、と笑顔で告げるエマニエルにげんなりと頷いた。

 数ヵ月経った。
 エマニエルはヒュウより八つ年長の兵士だ。面倒見よく、人がいい。いいのだが、お人よしに過ぎるところがある。ヒュウはそれをひょんなことから知った。ある日の終業後なにげなく酒場へ誘ったら、「悪いな」と軽く断られた。待っている人がいるのだという。
「……結婚してるんだったか?」
 なるべく何でもない調子で言ったヒュウに、そんなんじゃないよ、とエマニエルがひらり手を振る。だが事情を明かす前にちょっと躊躇うような苦笑をちらり見せて、実はさ、と口火を切った。
「メイドがいるんだ」
「……それで?」
 生活に多少余裕ができれば、使用人やそれを準ずるものを雇う人間なんかいくらでもいる。ちなみに「準ずるもの」とは、新鮮なミルクや蜂蜜を賃金代わりにして人間の住む家の家事全般を手伝う妖精や精霊たちのことだ。ヒュウはその準ずるものたちを身近に修業時代を過ごしてきた。
 だが、続くエマニエルの言葉に耳を疑う。
「その子、まだ十二でさ。あんまり遅くなると可哀想だなって」
 ヒュウは信じられない思いで間髪入れず聞き返した。
「男か」
「女の子だよ。メイドっていったろ」
「住み込みで?」
「……まあ」
「……そういう趣味なのか」
「だあ、お前までそんなこと言う」
 違うよ、と頭を掻くエマニエルの反応に、この調子だと他の人間にも漏らしてるな、とヒュウは見当をつけた。協調や連帯に興味のないヒュウの目にも、軍の中のエマニエルはどこか「変わりもの」という扱われ方だったのには気付いていた。
「……どうしてまた。血縁か何かなのか」
「全く赤の他人だよ。まあ、身寄りのない子でさ……」
 どういう事情かはわからないが、天涯孤独の少女に憐れを誘われてそのまま引き取ってしまったらしい。ヒュウは、細いが軽くもないその体躯を止むを得ず長い帰路でエマニエルに担がせた経験がある。
 その時も、つっかれたぁ、と苦笑しながらもエマニエルはヒュウに文句一つつけなかった。そのヒュウでも呆れた。人がいい。いいが、よすぎる。
「……まあ、あんたらしい」
 エマニエルは特別に手当がつくわけでもなしに、自分の鍛錬の他にヒュウの体力づくりのメニューにも辛抱強く付き合う。
 走り込みや筋力トレーニングのあとでぜいぜいと肩で息をするヒュウをよくやったなと褒めて、屈託がない。それがいずれはみんなの為になるならいいじゃないか、と笑うその様子には、自己犠牲などという御大層な表現はそぐわない。そういう男なのだ。その飾り気のなさに惹かれた自覚もヒュウにはある。
 それにしてもな、とヒュウはわがことにおいてもエマニエルのお人よしぶりには呆れる一件がもう一つあった。軍に入って給金をもらうようになったヒュウがやがて通うようになったのは色街である。初めて金を渡した相手は男娼だった。
 顔立ちの美しいヒュウの容姿はひどく目立つ。その数日後には、軍の中にもずいぶんと噂が広まっていた。あからさまに態度を変えるものがあった。その辺の兵士や上官なら、どんな目を向けられようがヒュウは鼻にもかけない。だがエマニエルは。
 ……どんな反応をされるやら、と涼しい顔を保ちつつもヒュウが今や相棒のような存在になりつつあった彼を待っていると。
 どんな顔をしたらいいのかわからない、という表情でエマニエルが現れた。気遣いが炸裂したエマニエルの様子に、嫌悪や侮蔑は無くただ戸惑いだけがあるのを見て取って、ヒュウはこちらこそ気遣うつもりでこう言った。
「……別に、どう思われようが、入館証はずっとあんたのものだ。取り上げたりしない」
 体力のないヒュウの訓練メニューを作る代わりに図書館の入館証を求めたのはエマニエルだ。男色家を忌避したところで、今さらそれを取り返そうなんていう気はない。
 体力筋力共に、まだ十分ではないが以前よりはマシになってきた実感もある。訓練も一通り体が覚えた。これまでのようにエマニエルがつきっきりにならなくても――
「そ、んなこと言うなよ」
 切実な声に、自然と下がっていたヒュウの目線が吸い寄せられるように上がった。
「ちょっとびっくりしただけじゃんか。そんな、あっさり縁を切ろうとするなよ。最初はつんけんしてたお前とも結構仲良くなってきたなって思って喜んでたの、俺だけかよ」
 エマニエルの剣幕にヒュウの方が呆気に取られた。続けてエマニエルはまくし立てる。
「そんな、まあ、そういう人もいるんだな、ってぐらいの認識だったけど、今までは――別に悪魔か何かのように思ってるわけじゃない。国王陛下だって、男も嗜まれると聞いたことがあるし。ちょっと驚いたんだよ、今まで身近にいなかったしさ。……それだけだよ、早まるなよ」
 あぁ、と訳のわからない感慨に駆られてヒュウは細くため息をつきながら肩を下げた。
「そばにいてくれるか」
 ヒュウがやっと絞り出すと、エマニエルは不器用に微笑んだ。
「傷つけていたなら、ごめんな。お前が望んでくれるなら」
 百人に疎まれ忌避されたって、――彼がいてくれるならそれでいい。
 余談に、エマニエルが愛してやまない本の宝庫である図書館での様子について。ヒュウの訓練メニューを作る見返りに求めた図書館の入館証を存分に使って、訓練を終えるなり閉館時間ぎりぎりまで本棚に粘る日々だった。まだ、貸出までは認められていない立場だ。
 今は閲覧しかできなくとも、利用態度が模範的ならいつか貸出もできるようになる、とヒュウから聞くとエマニエルは従順だった。それほど本が好きなのだろう。自身の研究のためにも図書館に赴くことがあるヒュウは、ある棚の前で決まって彼を見かけることに気付いた。
 ヒュウの記憶が正しければその棚には、稀少な種の生き物について扱った本が並んでいたはずだ。宝石のような美しい涙を流すが、愛しい人の手の中でしか輝かない「無価値の宝石」を有する人種。人間と交わる精霊や妖精から生まれた混血児。そして、男ながらに子を産む「グラニ」。
 その棚の前で一冊一冊を紐解くエマニエルは真剣そのものだった。敬虔な信者がやっと聖書に辿り着いたかのような貪欲さだった。ヒュウはその様を不思議に強く覚え、忘れられないまま、彼との邂逅から三年が経った。小国レイヌに、グラニを片割れとする連れ合いが入国した。サトリとナサヤである。